親友を好きな彼


一香は、ゆっくりと私を見ると、ぽつりぽつりと呟いた。

「私が大翔と出会ったのは、社会人になってすぐ。聡士と知り合った関係で、大翔とも知り合ったの」

そういえば、聡士と一香は、社会人になって知り合ったと言っていたものね。

その時に、聡士と大翔は友達なのだから、一香が知り合っても不思議じゃない。

「その時は、大翔は由衣とまだ付き合っていたのよね。でも、それは知らなかった。とういうか、彼女がいるとは聞いていたけれど、それが由衣とは知らなかったの」

それには私も頷く。

一香に付き合っている人がいるとは言っていたけれど、大翔の名前や詳しい事は何も話していなかったのだから。

それに、大翔も聡士にすら、私との事を話していなかったのだから、その時に私と一香が会社の同期で友達になっているなんて、誰も想像出来なかったはずだ。

「最初は、聡士と気が合っていて、琉二も交えてすぐに仲良くなって…」

「それで?」

「それで、しばらくして聡士から告白されたの。でもね、聡士の事は好きだったけれど、友達の関係を維持したかった。本当に心地いい関係で、それを壊したくなかったのよ」

その気持ちは分かる。

私でも、失いたくない男友達がいれば、同じ様に考えたかもしれない。

だけど、残念なことに、一香ほど交友関係は広くないのだ。

ほとんど、大翔一筋の学生生活を送っていたから…。

「どうして、それで大翔を好きになったの?」

すると、一香は目を伏せた。

「相談したの。聡士から告白をされた事を。そして、その気持ちに応えられない事を…」

なるほど。相談するうちにってやつか。

「大翔は、私を慰めて励ましてくれた。みんなで会う時も、聡士と二人きりにならないようにしてくれたり、話題がきわどくなれば変えてくれたり…」

大翔はそういう人。

本当に優しくて、温かい人で。

それを、一香も感じてしまったって事なの?

「それでね由衣。気が付いたら大翔を好きになっていた」

なんて皮肉な話…。

まだ、付き合っていた頃に、知らないところで一香と大翔は、そんな関わりを持っていたなんて。

「それで、聡士に言っちゃった。聡士の事は好きだけど、大翔の事を好きになったって」

一香は少しだけ笑顔になった。

だけどそれは、失望感でいっぱいの笑顔に見えたのだった。


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