親友を好きな彼


「それで、聡士は何て言ったの?」

「彼女のいる奴を好きになったって、フラれるだけだろって言われちゃった」

そりゃそうよね。

自分じゃなくて、大翔を好きだと言われて、聡士にはかなりショックだったに違いない。

「それでも大翔が好きだった。別に何も望まないから、友達として誰よりも仲良くいたかったの」

「それがどうして、聡士と関係を持ったりしたの?」

すると、一香はうなだれた。

「友達でいいなんて綺麗事。本当は辛くて、それを聡士に相談し続けていた」

「聡士に?」

「うん。自分を受け止めてくれる人と分かってて、甘えていたの」

そう言った一香は、話の終わりには嗚咽を漏らした。

「俺が忘れさせてやるって。そう言われて、私たちは関係を持った。大翔を忘れたくて必死で…」

今まで、何も知らなかったから、自分だけが悲劇のように思っていたけれど、違っていたんだ。

みんな、それぞれの想いを抱えていた…。

「それから大翔が彼女と別れたと聞いて、私告白したんだ」

「えっ!?」

告白!?

じゃあ、私と別れた後に、大翔は一香の気持ちを知ったって事…?

「あの頃ね、大翔はかなり自暴自棄だったんだよ?由衣と別れた事が、よほどダメージだったみたいで…」

「うん…」

「それに付け入る形で告白をして、あえなく玉砕。だけど、落ち込む大翔を励ましている内に、一度だけ私たちは関係を持った」

涙を流しながら、一香は私を見た。

「嬉しかった。だって、ずっと好きだった人の温もりを、感じられたんだもん」

そういう事だったの。

一香の気持ちは、女として分かりたい部分もある。

だけど…。

「それを知った聡士は、その後県外に出て行ったんだ」

「一香の事で?」

「うん。気持ちを整理したいからって」

じゃあ、またここへ戻ってきた理由は何?

しかも、一香の元勤務先へ。

そういえば、いつか亜子が言っていたっけ。

聡士がヘッドハンティングで来たのには、何か裏があるんじゃないかって…。

「ねえ、一香は知ってるの?聡士が戻ってきた理由。そして、私たちの会社へ入ってきた理由を…」

すると、一香は頷いた。

「知ってる。復讐だよ。大翔に対する復讐の為…」


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