親友を好きな彼


今は全然違うと言うけれど、何が違うのか分からない。

琉二も私次第とか言っていたけれど、私の何が重要なの?

「あのね、一香と聡士の関係は、一香から聞く前に本当は知っていたの」

私の告白に、一香は唖然とした。

「どういう事なの?聡士から聞いていたって事?」

ゆっくり首を振ると、ずっとバッグへ入れて持ち歩いていた”あるモノ”を取り出した。

「これ…」

それは、いつか聡士の家で拾ったネックレス。

私と海外で買ったお揃いのネックレスだ。

「こ、これ…」

震える手で一香は受け取ると、言葉を失っている。

「聡士の家で見つけたの。それよりも前から、聡士のベッドからは甘い香りがしていた。そう、一香と同じ匂いが。久々に一香に会った時に、まさかとは思ったけれど、これで確信したのよね」

それから、一香自身からカミングアウトをされたんだっけ。

「そう…だったんだ」

「不用心よ一香」

皮肉もこめて言った瞬間、一香の目からは涙がこぼれた。

「これを落とした日は、聡士に体の関係をやめたいって言ったのよ。でも、ほとんど無理矢理…」

そう言って、一香は声を押し殺して泣いた。

「ご、ごめん一香。そんな事情だったとは知らなくて…」

そんなに号泣するくらい、辛い出来事だったとは思わなかった。

「ううん。違う。謝らないで。された事が嫌だったんじゃない。聡士がそんな事をするくらい、私は自分の気持ちに宙ぶらりんだった事が情けなかったの」

涙を流す一香を見ながら、恋愛の難しさを感じる。

一香だって、聡士を心底好きになれればどんなに楽か。

でも、人の気持ちは簡単にはいかないものよね…。

「宙ぶらりんなら、私はもっとよ。聡士を好きにならなければ、大翔を懐かしく感じなければ、こんな事にはならなかったのかも。私が一香たちの輪を、乱しているのかもしれないって思っちゃった」

そういう意味では、やっぱり私はキーだ。

私さえ、みんなに出会わなければ…。

すると、一香は険しい顔で反論したのだった。

「違う!それは違うよ。何で、そんな事を言うの?聡士も大翔も私も、由衣が好きだから苦しいんじゃない。みんな、由衣を手離したくなくて必死なのに…」

「一香…」

「ねえ、由衣。お願い。少し落ち着いたら、聡士と大翔ともきちんと話しをして。二人は本当に、由衣が好きなの。私の事を、許せなければそれでいい。だけど、二人の事は真剣に考えてあげて…」

涙ながらに言う一香に、返事をする余裕すらなかった…。


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