親友を好きな彼


一香は、ゆうべ大翔が一香を抱いたのは同情からだと言っていた。

だけど、本当の気持ちは本人しか分からないから、ちゃんと聞いて納得して欲しいと…。

まだまだ、明るい街を歩いていると、どうして私たちは嵐の中にいるのかと思ってしまう。

道行く人たちは、笑顔で歩いているのに…。

私たちに、本当の笑顔が戻る日はいつだろう。

一香と別れ、一人歩きながらそんな事を考えていた。

そして、最後に聞いた質問の答えを頭に巡らせていたのだった。

「どうして、聡士を私に紹介しようと思ったの?」

それを聞いたのは、本当の意味を知りたかったから。

すると、一香はこう答えたのだった。

「由衣に押し付けたかったんじゃない。ただ、二人ならうまくいきそうな気がしたから。聡士も本当に好きな人を、見つけられるんじゃないかと思ったの」

と…。

ただ、それは軽率過ぎたと謝っていたっけ。

もちろん、一香から紹介されるより前から知り合って、体の関係を持ったのだから、紹介された事にこだわっているわけでも恨んでいるわけでもない。

ただ、純粋に聞いてみたかったのだ。

それにしても、復讐だなんて。

大翔へのあてつけで私に近づいたらしいけれど、それで私がなびかなければどうするつもりだったんだろう。

それとも、聡士にはそれだけの自信があったのか…。

今思えば、初対面から妙に馴れ馴れしかったのも頷ける。

最初から、私を狙っていたんだ。

転職も以前に琉二には話したと言っていたけれど、大翔にはいつ言うつもりだったのか。

考えれば、謎だらけだけど、それはまた知ればいいこと…。

まずは、大翔とちゃんと話し合わなくちゃ。

このままじゃいけない。

逃げずに向かい合おう。

大翔に時間を取ってもらうようお願いをすると、すぐに了承してくれた。

「家においで」

その言葉通り、大翔の家に向かっている。

つい数時間前まで近くにいたのに、また戻ってくるなんて。

聡士は、今何をしているのかな。

そんな事を気にしながら大翔のアパートへ着き、インターホンを押すとすぐに迎え出てくれた。

「由衣…」

表情を曇らせ、大翔は招きいれてくれたのだった。


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