親友を好きな彼
「座って」
ぎこちない笑顔を向ける大翔は、私を座らせた。
「何か飲むか?」
「ううん。いい。さっき、一香とお茶をしてきたから」
そう言うと、明らかに大翔の表情は動揺している。
「全部聞いた。一香から。聡士の事も、ゆうべの事も…。一香が大翔を好きな事もみんな…」
「そうか…。ごめんって謝っても仕方ないよな。だけど、本当にごめん」
うなだれる様に、大翔は目を伏せた。
「大翔、最後に聞きたいの。本当の気持ちを」
「本当の気持ち?それなら、間違いなく言える事は、俺は由衣が心底好きだったという気持ち。それは本当だ」
「うん…」
”好きだった”。
気持ちは既に過去形になっている。
「別れてから、忘れられないのも本当だった。一香の告白に心が揺らいだのも本当」
一香こそ、聡士と大翔から想われていたんだよ。
羨ましい…。
「ただ、一香の事は由衣を忘れる為に利用しようとしている様で、どうしても気持ちに応えられなかったんだ」
利用か…。
私も大翔を利用したのと一緒よね。
聡士への気持ちを誤魔化す為に…。
「初めて一香を抱いたのは、本当に自暴自棄から。でもゆうべは本当に愛しいと思ったから」
「待って!ゆうべは、私との約束を破ってまで会ったのよね。それはどうして?」
すると、大翔はきょとんとした顔をした。
「一香、肝心な事を言わなかったのか…」
「肝心な事?」
「聡士と一香の関係は、とっくに終わってる。…二人の関係も知っているんだよな?」
「知ってる。でも、終わってるって?私ね、つい最近も仕事中に、二人がビジネスホテルに入っていくのを見た事があるのよ」
「それは分からないな。聡士に聞いてみた方がいいよ。でも、間違いなく終わってる。だからこそ、一香は悩んでいたんだ」
悩む?
一体何を?
それを察した様に、大翔は話を続けた。
「新しい恋をしたいんだ。一香はこれ以上、自分が足を引っ張る存在になりたくなかった」
「足を引っ張る?」
「そう。自分がいるから、聡士もフラフラして由衣も心を決めかねて、だから俺も未練を断ち切れない、そう思ったんだよ」
小さく、微笑んだ大翔は私の手を優しく握った。
「このぬくもりも、ずっと忘れられなかった。だけど、再会した由衣の心はもう違うところへあった」
「え?どういう…事?」
「好きだったろ?俺と再会した時から、聡士の事が」
その言葉に、ただ茫然とするしかなかった。
気付いていた…。
大翔は私の気持ちを…。