親友を好きな彼
言葉を失った私に、それでも大翔は優しい笑顔を向け、手は握ったままだった。
「責めているつもりはないから。それは仕方のない事で、それでもいいからもう一度、由衣のぬくもりを感じたかった」
思い返せば、やり直そうと言われた時、私に好きな人がいると、知っている様な言い方をしていた気がする。
どうして、あの時気付かなかったのだろう。
「大翔、私といてどんな気持ちだったの?」
私は聡士と一緒にいて、本当に辛かったよ。
私を通して、一香を見ていた事が辛くて…。
だけど、大翔は清々しい表情をしたのだった。
「幸せだった。たとえ、気持ちは違っていても、隣に由衣がいる事。笑ってくれること。すべてが幸せだった」
「大翔…」
こみ上げる涙を止める事ができない。
「泣くなよ。由衣が思うほど、俺は傷ついていないし、ゆうべは由衣を裏切ったんだから」
「大翔のやった事は、裏切りなんかじゃない。当たり前の事よ」
少なくとも、今は一香の方が本当に大翔を好きなはず…。
どちらを取るか、そんなのは簡単に出せる答えだ。
「一香な、友達の紹介で知り合った奴を、本気で考えようと思ってるんだってさ。だけど、まだどこか迷っていて、昨日は泣きつかれて放っておけなかったんだ」
「そうなの?一香が…?」
それで、一香を抱いた。
理由が分かっただけで、もう私はそれでいい。
「ねえ、一香は大翔が自分を抱いたのは、同情からだって言ってたよ。誤解は解いてあげてよ」
すると、大翔は首を横に振った。
「そう思ってくれた方がいい。確かに、昨日は悩んで、それでも前を向こうとする一香を愛おしく思った。だけどやっぱり、気持ちには応えられない」
「そうなの…?」
「ああ。俺はやっぱり由衣を忘れきれないし、次に彼女にするなら、もう全然繋がりのない人を探すよ」
苦笑いする大翔は、ゆっくりと手を離した。
「それから由衣も、もう俺の事は気にしないで、自分の気持ちに正直になれよ。俺は、昨日みたいに連絡も無しに、約束をすっぽかす奴だからさ」
「大翔…。でも私には、大翔は昔と変わらない優しさがあるって思ってる」
「ありがとう。由衣だってそうだよ。仕事ではまだまだ絡むけれど、いつもと変わらない由衣でいて欲しい」
「うん。あ、そうだ。ずっと知りたかった事があったの。どうして、付き合っていた頃、私は大翔の友達に会えなかったの?話すらしてくれなかったでしょ?」
もう、これを聞く機会もないだろう。
ずっと心のモヤモヤを少しでも取りたくて、最後にそう質問したのだった。