親友を好きな彼


「うわぁ…。想像以上に凄いじゃない」

聡士とホテルに着くと、お客様が来る直前の部屋で思わず声を上げてしまった。

「だろ?こっちも頑張ったよ」

スーツをきっちりと着こなし、今日の大翔は髪もオールバックに固めて、いつもと雰囲気が全然違っていた。

”さようなら”の話をしてから初めて会う大翔。

緊張と不安がなかったといえば嘘だけれど、会うと変わらない優しさで迎えてくれて救われた。

「本当にスゲーな。シャンデリア、こんな豪華じゃなくなかったか?」

聡士も天井を見上げて、ため息を漏らしている。

「これだろ?特別に変えたんだよ。カーテンやイスなんかも、得注」

得意げな大翔に、聡士は目を丸くした。

「何で、そこまで出来たんだよ」

「俺だって、けっこう力があるんだぜ?それに親友の仕事なら、出来る限り協力したいから」

そう言う大翔に、聡士はまんざらでもないのか、少し恥ずかしそうに睨んでいる。

「お前、いつからそんな事を言うようになったんだよ」

「聡士の影響かな?お前なら言いそうなセリフだろ?」

笑って答える大翔に、心底ホッとした。

私との事より、聡士との友情関係だけは壊して欲しくなかったから。

「後少しでお客様もお迎えする事になるし、聡士頑張ろう!」

奮い立たせるように言った私を、聡士は笑顔なく見つめる。

無言で責められているみたいだ。

まだ、心配してるのかしら?

でも、今は仕事、仕事。

「私、裏の方を見てくるね」

新車説明の時に流す3Dディスクのチェックに、裏へ向かった時だった。

「何!?無い!?」

ホテル関係者のまさに怒号が聞こえる。

何の騒ぎ?

ゆっくり、舞台となるステージの裏側へ行くと、40代くらいの男性が、いかにも新人といった雰囲気の男の子に険しい顔を向けている。

今回のプロジェクトのホテル側の責任者は、表向き大翔となっているけれど、実際はいろいろな上層部が絡んでいるのだ。

何せ、会社上げてのプロジェクトなのだから。

この男性は見た事はないけれど、協力してくれる人には間違いなかった。

「あの…。どうかされたんですか?」

恐る恐る近づくと、私に気づいたその人は顔を真っ青にした。

「メーカーの方ですよね?」

「はい。佐倉と申します」

すると、突然頭を下げられたのだった。

「申し訳ありません!本日使用されるディスクを、誤って別のホテルへ送ってしまっているんです」

「ディスクって、3Dのやつですか?」

私の質問に、その人は弱々しく頷いたのだった。

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