親友を好きな彼


「ちょっと待てよ由衣!お前、行くつもりか!?」

聡士と大翔に事情を話し、ディスクの回収に向かう事にした。

「だって、送ったのは今朝で、それもメール便よ?業者側に、まだあるはずだもん」

「だけど、今から行っても間に合わないだろ?」

聡士の諦めたような言い方に、苛立ちを覚える。

「じゃあ、諦めろと言うの?あれは、ただの飾りじゃない。車の説明も含まれていて、無ければただの口頭での説明会に過ぎなくなるのよ?」

「だけど、どっちにしても、後10分足らずで、みんな来始めるんだ。どうするんだよ」

「だから、そこは聡士が何とか繋いでよ。プログラム変更するとか」

1時間あれば戻って来られる。

時計を見ながら、カバンを手に取った時だった。

「待て。行くなら俺が。ここの責任者は俺だ」

険しい表情の大翔が、私を引き留めた。

「ううん。大翔はここにいて。私たち、ホテルの仕組みまでは分からないの。一緒に打ち合わせをしてきた大翔がいなければ、聡士だって分からない事だらけだわ」

「でも…」

「でもじゃない!とにかく、メール便が発送されたらそれこそ終わりなのよ。急いで行くからね」

心配する二人を振り切って、ホテルの玄関へ向かうと、どこまでも運が無い。

外はどしゃ降りの雨だった。

「ったく、天気予報のバカ!」

今日は、一日中晴れじゃなかったの?

仕方がない。

傘の用意はしていないし、それどころじゃない。

ホテルで待機しているタクシーに乗り込むと、宅配業者の事務所へと向かった。

聞くと、荷物を一括して受け取るセンターという場所があるらしい。

そこに今朝の荷物も運ばれていて、夜の飛行機便で発送されるという事だった。

「もう、本当に何で沖縄へ送ろうとするのよ」

思った通り、叱られていたのは入社したての新人くんで、沖縄にあるグループホテルへディスクを送る手配をしたらしい。

そこでも何かしらの行事があり、そこで使う物だったとか。

だから、こちらに残されているのは、沖縄のホテルで使う物だった。

早く、早く…。

気ばかり焦るのに、雨のせいか渋滞して車が進まない。

「お客さん、急ぎ?」

バックミラー越しに、運転手さんが声をかけてきた。

それほどまでに、態度に出ていたらしい。

「はい。ちょっと仕事関係で…」

「そうか。夕方な上に、この急な雨で進みが悪いんだ。あそこなら、ここから徒歩で15分くらいで行けるよ?どうする?降りる?このまま乗っておく?」

降りしきる雨を見つめながら、言っていた。

「降ります」

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