親友を好きな彼


雨に濡れるとか、今はそんな事はどうでも良かった。

むしろ、冷たくて気持ちいい。

どうやら、風邪は本格的に悪化し、熱が出てきている様だった。

だけど、このプロジェクトは成功させなくちゃ。

聡士の為にも、自分の為にも、会社の為にも…。

こういう時、ハイヒールというのは歩き辛い。

出来るだけ走っていきたいのに、思う様に行けれないのがもどかしい。

途中、コンビニで傘を買おうか迷ったけれど、みんな考える事は同じでレジには長蛇の列がてきている。

「仕方ない。このまま急ごう」

横目でやり過ごしながら、走って向かうこと10分。

ようやく目的地まで辿りついたのだった。

センターというくらいだから、どれほど大きな建物かと思えば、こじんまりとした事務所だった。

中へ入ると、作業服姿の同じ20代くらいの女性が出迎えてくれた。

「お電話されていた方ですよね?」

「はい。申し訳ありませんが、荷物を探してもいいですか?」

「どうぞ。どれくらいの大きさの物ですか?」

大きさ?

そういえば、どんな封筒かとか聞いていなかった。

「ディスクなので、小さい物だと思うんですが…」

なんて、頼りない返答しか出来ない。

すると、女性は奥の部屋へと案内してくれた。

「それくらいの大きさでしたら、こちらの部屋にあります。飛行機便の物だけで、行き先別に仕分けてありますから、探しやすいとは思いますよ」

「本当ですか?ありがとうございます!」

良かった。

行き先別になっているだけでも有難い。

「お手伝いしたいのはやまやまなんですが、他の仕事がありまして…」

女性は申し訳なさそうに、私を見つめる。

「いえ、こちらのミスですので、一人で大丈夫です。すいません」

そう言うと、その人はホッとしたように部屋を出て行った。

小さな窓からかろうじて明かりが差し込む程度の、カビ臭いコンクリートの部屋だ。

点けてもらった電気の明かりを頼りに、沖縄行きの荷物を探す。

青いプラスチック製の箱に、丁寧に揃えて入れられている荷物から、沖縄行きを探し出すだけでも一苦労だった。

「思った以上に凄い数ね。ここから、ディスクを探さなくちゃ」

行き先のホテル名は同じなのだから、行き先から探した方が早い。

かたっぱしから、封筒や小包の行き先を調べる。

雨で濡れた体が冷えてきて、どんどん体調も悪化してくる。

だけど、ここで諦めるわけにはいかない。

とにかく探し続けること30分、ようやくディスクを見つけたのだった。

「うん!これだわ」

手の感触からもディスクだと分かるし、送り主に新人くんの名前のハンコが押してある。

「ごめんね。一応確認を…」

万が一、違う封筒を開けたら、それも持って帰る様に大翔に言われていたのだった。

丁寧に封を開けると、探していたディスクに間違いなかった。

「良かったぁ…」

ディスクを握り締め、電気を消すと部屋を出た。

「ありがとうございました。見つかりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

そう言って挨拶をし、事務所を後にする間際、さっきの女性が小走りに駆け寄ってきた。

「先ほどは、気づかずにすいません。これ、タオルと傘を使ってください」

真っ白な、おそらく新品のタオルと、こちらは使い古されたビニール傘を手渡される。

「あの…これ」

「タオルも傘もそのまま差し上げます。傘、お持ちじゃないんですよね?」

そうか。

この身なりを見れば、分かるのも当然だ。

「ありがとうございます!」

お辞儀をして傘を受け取ると、近くの通りまで走りタクシーを掴まえた。

帰りの道は行きほど混雑していなく、予想よりは遅い到着になってしまったけれど、聡士が何とかプロジェクトは繋いでいてくれていたのだった。

タクシーの中で使わせてもらったタオルを握り締め、ディスクが戻り安堵する聡士と大翔を見つめながら…。

気が付いたら、私は意識を失っていたのだった。

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