親友を好きな彼


鼻につく臭い。

何これ?

アルコールの様な…、ほら病院で定番の臭いだわ。

だけど、何でそんな臭いがするのかしら?

目をゆっくり開けると、真っ白い天井が見え、その瞬間、見慣れた二つの顔が私を見下ろした。

「由衣!大丈夫か!?」

聡士と大翔が、心配そうな顔で覗き込んでいる。

「あれ…?何で二人が?」

「病院だよ。お前、プロジェクトで倒れたのを覚えてないのか?」

聡士の言葉に思わず飛び起きて、気分の悪さを覚えた。

「由衣、突然起き上がるなよ」

大翔にたしなめられ、顔をしかめながら聞いた。

「待って。倒れたって、私ディスクを持って戻ってきてから…?」

それ以降の記憶がない。

しかも、病室の窓からは、明るい陽射しが差し込んでいる。

「ちょっと待って。一晩眠っていたの?」

完全に混乱しながら二人を見ると、二人ともプロジェクトの日と同じ服装だった。

よく見ると、無精ひげまで生えている。

「そう。日付が変わって、今ちょうど昼だ」

聡士はネクタイを緩ませながら言った。

「二人がついてくれていたの?」

「ああ。お前、肺炎起こしかけてたんだからな。やっと安心できたよ」

溜め息交じりに言う聡士に、大翔も眉を下げた。

「そうだよ由衣。俺たち本当に心配したんだからな。聡士から聞いたけど、体調悪かったんだろ?なんで無理をするんだよ」

「ごめんなさい。だって、この仕事は…」

ちらりと聡士に目をやると、さらに深いため息をつかれた。

「俺の為とか言わないでくれよ。別にこれが大成功をおさめなくても、アメリカ行きはなくならないよ」

「だって…。私が聡士の為に協力出来る、最初で最後の仕事だから…」

ベッドの上で俯く私に、大翔が明るく言ったのだった。

「お邪魔な様だから、俺は戻るな」

「あっ、大翔。本当にありがとう。今日は仕事は?」

「休んだ。おっと、謝るなよ?元はと言えば、こっちのミスから始まった事なんだから。ゆっくり休んで、早く元気になれよ」

そう言って軽く手を振ると、大翔は帰って行ったのだった。

「お前、大翔をフッた事、絶対に後悔すると思うよ」

やり取りを見ていた聡士が、嫌味たらしく言ってくる。

「うるさいわね。程よい距離感がいいって事もあるんだから」

ほら、もうこうやって憎まれ口を叩いてしまう。

私って、本当に可愛げがない。

「それより由衣、お前マジでちゃんと体治せよ。プロジェクトは大成功。社長も大満足で、部長以下の上司たちも褒めてたよ。お前の事は会社も知っていて、ゆっくり休む様に伝言受けてるから」

「ありがとう…。そして、ごめんね」

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