親友を好きな彼


仕事が終われば聡士の家へ帰り、当たり前の様に抱き合って気持ちを重ね合う。

そんな毎日が、しばらくは続くと思っていた。

大翔や一香も、心から喜んでくれて、琉二は「俺と知り合った甲斐があったろ?」と、またもや恩着せがましい事を言っていた。

確かに、後押しはしてくれたけれどね。

どうも、こういう”俺様”的な性格は、聡士とかぶって仕方ない。

それを聡士に話すと反論してこなかったので、やっぱり自覚はある様だ。

そんなたわいない、それでも幸せを感じる毎日を過ごしていた。

季節は春になり、暖かく晴れ渡る空が眩しくなった頃、”それ”は突然やって来た。

「辞令…」

そう、社内で発表されたのは、聡士のニューヨーク赴任の辞令だったのだ。

5月からの赴任に、社内は騒然となる。

本人にも突然の報告だった様で、つい今しがた上司の元から戻ってきた聡士は、あっという間に同僚たちに囲まれたのだった。

早くなるかもとは聞いていたけれど、まさかこんなに早いなんて…。

茫然とする私の肩を、亜子が優しく叩いた。

一緒に居られるのも、一か月と無いなんてショック。

分かり切っていた事なのに、本当に聡士と離れ離れになるのかと思うと、急に寂しさがこみ上げてくる。

囲まれたみんなの中から、かろうじて聡士と目が合った。

小さく苦笑いをした聡士に、私も小さく微笑み返す。

本当、恋はうまくいかない。

やっと想いが重なったと思えば、もう離れるなんて。

そしてその夜、いつもの様に聡士の家へ戻った私は、アメリカ行きの話を聞けたのだった。
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