親友を好きな彼
「嶋谷くん!?」
年甲斐もなく、過剰に反応した私とは違い、嶋谷くんは普通に指を絡めてきた。
これって…、ますます恋人同士みたいじゃない。
鼓動が早くなるのを感じながら、一瞬にして体が熱くなる。
「滑るだろ?その靴」
「え?う、うん…」
「だから、ちょっと我慢してろよ。こんな人混みで滑るよりマシだろ?」
そう言って嶋谷くんは微笑むと、歩幅を合わせて歩いてくれる。
気付いてくれていたんだ…。
なんて温かくて大きな手だろう。
二年前まで、私の手を包み込むのは大翔だった。
大翔の手はゴツゴツと筋肉質な感じだったけれど、嶋谷くんはそれほどでもない。
ただ、とても温かくて優しい握り方をする。
少し、自分の方に引いてくれているのか、腕と腕も当たって、私の心臓は久しぶりに強く波打っていた。
たわいもない会話をしながら15分ほど歩くと、シックな雰囲気の店に着いた。
大通りに面していて、この店を境に、しばらくは落ち着いた大人の店が並ぶ。
ファッションにジュエリーの店も、それまでのカジュアルな雰囲気から一転していた。
「素敵…。私、初めてよ。こんな素敵なお店は」
大翔とも、ここまで大人ぽい店には来た事なんてない。
「良かった。せっかくだから、楽しもう」
「うん」
変わらず手は繋がったまま、引かれるように店内へと入ると、手際良く席へと案内される。
イルミネーションが綺麗に施された庭の見える窓際のテーブルへ着くと、次々とコース料理が運ばれてきた。
どうやら予約をしていた様で、やっぱり誰かと来る予定だったと分かる。
まさか、私を誘う為に予約をしたわけじゃないだろうし…。
だけど、今はそんな事は聞かないでおこう。
一人で過ごすより、ずっと楽しい。
それだけで、十分だったから。
「そうだ佐倉。甘くておいしい赤ワインがあるんだ。飲むか?」
「うん。飲む」
そうよ。
今夜くらい、思い切り楽しもう。
大翔の思い出と重なる人と。