親友を好きな彼
「美味しい~!」
「だろ?このワイン、特別にフランスで作られた物らしくて、本当に美味しいんだよ」
「うん。それにお料理も、本当に美味しい」
本当にどれもこれもが、美味しく感じられる。
「そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ」
苦笑いの嶋谷くんは、きっと呆れているに違いない。
だけど、それも気にならないほど、彼との距離感は居心地が良かったのだ。
恋愛感情もない、だけど仕事の上ではライバルで…。
この関係は、一番自分に合っている気がする。
「あ~あ、世の中のカップルって、みんなこんな風に過ごしているのね」
「どうしたんだよ急に」
笑いながら、ワインを注いでくれる嶋谷くんに、私はそれを飲み干しながらボヤいていた。
「それがね、ほとんど疎遠だった同級生から、『今度、結婚しま~す』ってハガキがいっぱい来てさ」
「あ~、それはあるかもな。俺たち27歳だから」
納得したように頷きながら、嶋谷くんもワインを口に入れる。
「そうだよねぇ。やっぱり…。なんか、結婚式なんて行きたくないっていうか、断ったんだけど、モヤモヤするっていうか…」
おかわりしたワインを流し込む私に、嶋谷くんは苦笑いを向けるとグラスを取り上げた。
「飲み過ぎ」
「あっ!まだ飲みたかったのに」
恨めしそうな私を気にする事もなく、グラスを自分の側に置くと、こう言ってきたのだった。
「じゃあ、少し街を歩こうか?酔い覚ましにもなるし」
「え?」
「クリスマスのイルミネーション、かなり綺麗だよ」
嶋谷くんの笑顔に吸い込まれた私は、小さく頷いていた。
彼の優しい笑顔は、やっぱり大翔を思い出させる…。