親友を好きな彼
「おはよう」
「おはよう、嶋谷くん」
いつもと変わらない朝の社内の光景。
ゆうべ抱き合ったとは思えないくらい、聡士は普通に隣のデスクに座ると、仕事の準備を始めた。
明け方近くに、まだ眠る聡士を置いて出てきたはいいけれど…。
こっちは緊張で、いつもより早く会社に着いてしまっていた。
聡士がいつ来るのか、それを考えていると落ち着かなくて、誰かが入ってくるたびに自然と目線はドアに向いていた。
「さあ、もう少しで今年も終わりだ。最後の一仕事!」
ご機嫌良く、課長は資料を私のデスクへと置く。
高さ30センチはある資料の束だ。
「何ですか?これ」
怪訝な顔で聞くと、課長はそのパンパンに張った丸い顔で笑顔を作った。
「書庫整理。お前たちは優秀で、アポも整理しただろ?午前中だけでいい。やってくれるか?」
「はあ…。でも、お前たちって?」
「決まってるだろ?嶋谷と二人で」
二人で!?
思わず聡士に目を向けると、淡々と『分かりました』と答えていた。
二人か…。
このタイミングで、二人きりになるなんて気まずい。
「それじゃ、頼むな」
課長はそう言って戻ると、聡士が資料の山を抱えて立ち上がった。
「佐倉、行こう」
「うん」
書庫は、同じフロアの一番奥にあり、窓は一カ所しかない薄暗くジメジメした場所だ。
3メートル程度の高さの棚に、種類や年ごとに資料が並べられている。
保管期限まで、重要書類がここで管理されるのだった。
ほとんど、保管庫のような場所なのと、普段は施錠がされているから、滅多に人が来る事はなかった。
「じゃあ、片付けるか」
「うん…」
聡士は、黙々と資料の束に目をやり、棚を探している。
一緒にいた時とは別人かと思うくらい、なんだか今日は愛想が悪い。
むしろ、何か気に入らない事でもあるみたいだ。
「ね、ねえ聡士。何かあった?機嫌が良くないみたいだけど」
もしかして、昨日の夜の事は、無かった事にして欲しいと思っているとか?
だから、私に対して愛想が悪いのかと、勘ぐってしまう。