親友を好きな彼
――ゆうべはシャワーを浴びた後、いつの間にかソファーで眠っていたみたい。
肌寒さで目覚めた時は、もう明け方だった。
その時、情けなくも思ってしまったのよね。
もし、彼氏でもいれば、起こしてくれたのかなとか、温もりで目が覚める事もなかったのかなとか…。
「って、27歳にもなって何考えてるのよ!」
「ちょっと、由依。何を朝から給湯室で叫んでるのよ」
「あ…、亜子。おはよ…」
思わずコーヒーのパックを引き裂きそうになった手を止める。
出勤しても、ゆうべのモヤモヤはまだ残っているみたいだ。
「どうしたの?何かあった?」
「う~ん…。ゆうべもまた届いててさ。例のハガキ」
亜子は私の同期で、同じ部署の営業ウーマン。
涼しげな目元が印象のスレンダーな美人だ。
長い黒髪はいつもアップに纏めていて、知的さ抜群のクールな女性なのだった。
身長160センチの私でも見上げる長身で、まるでモデルの様。
同じ営業職という共通点もあり、入社したてから気が合っているのだ。
「へえ。またね…。まあ、年齢的にもラッシュの頃かもね」
「亜子って、そういうとこはクールよね。彼氏の話とか聞いた事がないし」
そう、これだけの美人なのに、彼氏がどうとか聞いた事がない。
そんな私の素朴な疑問にも、亜子は表情ひとつ変えなかった。
むしろ、『それが何?』とでも言いそうな雰囲気だ。
「でも私、話を聞くのは好きだから。由依の相談に乗るのは好きよ」
ようやく少し笑みを浮かべると、私のコーヒーパックを取り上げた。
「そろそろ行かなきゃ。忘れた?今日は新しい営業の人が入社してくる日よ?」