親友を好きな彼
「同じ会社!?聡士、そうだったの?」
“聡士”
私より一香の方が、その呼び方がしっくりくる。
「ああ。一香には内緒にしてたけど、実はあの会社に転職してさ」
そう言う聡士は、私とも一香とも目を合わさず、ただ一香の正面に座った。
「知らなかった~。琉二(りゅうじ)は知ってるの?」
「知ってるよ。あいつには話したから」
「だったら、教えてくれればいいのに」
私の隣で膨れっ面の一香を見ながら、こっちがふて腐れたい気分だ。
琉二って誰よ?
それに、二人はだいぶ長い付き合いなのか、話し方もかなり自然だ。
さらに聡士もこの店の常連らしく、ますます私は疎外感を感じた。
「二人が知り合いなら、由衣には悪い事をしたかもね」
ようやく一香は私に目を向けると、申し訳なさそうに言った。
「そんな事ないよ。どうして?」
「だって、せっかく紹介したかったのに、社内の人じゃね。二人は仲が悪いとか、そんなんじゃなかったよね?」
そう言う一香に、聡士が素早く返事をした。
「そんなんじゃねえよ。大丈夫。な?由衣」
やっと私を見た聡士に、小さく微笑み返す事しか出来ない。
聡士の言葉は、私へのというより、一香へのフォローにしか聞こえなかった。
「それなら安心だけど…。由衣って、いいヤツでしょ?」
一香は、いつもの調子のいい口調で言う。
普段なら、それに突っ込みを入れる私も、今は何かを言う気力もない。
「そうだな。そう思うよ、仕事もバリバリだし」
「仕事は余計よ…」
聡士には、そう言い返すのがやっと。
やっぱり、感じてしまう。
私との関係を、一香に悟られまいとしようとしていることが。
目をなかなか合わせてくれないのも、笑顔を一香ばかりに向けるのも…、どうしてなの?
知られたくない理由があるの…?