親友を好きな彼
いくら、お酒を飲んでも酔えない…。
だけど、誰より楽しそうな一香は、酔いで顔を赤くしていた。
「そろそろお開きにしないか一香?お前、酔い過ぎだって」
そう言う聡士は、飲んだ割には、見た目が全然変わらない。
そういえば、一緒にお酒を飲んだ時も、私の方が酔っていたっけ。
そんな事を思い出しながら、一香の体を支えて立ち上がろうと思った時、一瞬早く聡士が一香の手を取った。
「ほら、一香。タクシー呼ぶから一緒に帰ろう」
聞き流しそうなくらい自然な言葉に、それでも私の耳はしっかりと聞き取っていた。
“一緒に帰る”…?
どこに?
呆然とする私なんて、二人の視界には入っていないのか、一香は聡士の肩にもたれかかった。
「う~ん…。いいよ。一人で帰れるから」
「帰れるわけないだろ?俺も今夜は実家に泊まるから送っていく」
そう言うと聡士は、一香の肩を抱くと、私に申し訳なさそうな目を向けた。
なんとか存在は覚えてくれていたらしい。
「悪いな由衣。俺、今夜は実家に戻るから、由衣は一人で大丈夫か?」
「うん。大丈夫よ。私の事は気にしないで、一香を連れて帰ってあげて」
かろうじて微笑むと、それに安心した様に、聡士は先に店を出た。
私は初めて見た光景だったけれど、二人にとっては当たり前の事に違いない。
だって、あまりに自然過ぎるから。
聡士も一香も、当たり前の様にお互いが一緒で…。
心に穴が開くのを感じながら、帰り支度をすると店を出た。
会計は済ませてくれていて、そんな聡士の行動にときめく自分がいる。
そう感じると、ますます二人が今どこで何をしているのかが気になってきた。
本当に帰ったの?
携帯を鳴らしたくなる衝動を抑えながら、タクシーをつかまえ乗り込んだ時、堪えていた涙が一筋流れた。
二人はただの友達じゃない。
きっと、もっと深い関係…。
その事に、どうして私は傷ついているのだろう。
どうして、涙を流しているのだろう…。