親友を好きな彼
明日が休みで良かった…。
今夜は眠れそうにないから。
最近、感じなくなったマンションの階段が、今夜は久しぶりに重く感じた。
都会の空に、星なんて見えないけれど、バルコニーから夜空を見上げると、頭に浮かぶのは聡士と一香の事だけ。
一香は今、一人暮らしをしているのだったっけ?
もし、そうなら本当に聡士は帰ったの?
ねえ、教えてよ。
二人はまだ一緒にいるの?
それとも、もう帰った?
来るはずもない連絡を待って、気が付いたら携帯を握りしめたまま眠っていた。
次に起きたのは、携帯の着信音が鳴ってからで、情けなくも聡士からだと思った私は飛び起きた。
だけど、かけてきたのは一香からで…。
「昨日はごめんね!酔い潰れて、途中から意識がなかったのよ」
昼前にかかってきた一香の声は、すっかりいつもの元気さを取り戻していた。
「いいよ。それより、ゆうべは大丈夫だった?」
と聞きながら、余計な事を聞いたかもしれないと後悔した。
知りたい様で知りたくない、それが本音だったから。
だけど、一香は『うん。大丈夫だった』と軽く返しただけで、代わりに『今から会えない?』と、誘ってきたのだった。
聡士の話が出るのは覚悟で、待ち合わせのカフェへ足早に向かう。
むしろ、きちんと話を聞いた方がいいかもしれない。
もし、一香の好きな人なら、今まで通りに聡士と接するわけにはいかないからだ。
本当に好きかどうかも分からない人と、体だけの関係を続けるなんて間違っている。
それは分かるのだけれど…。
「由衣~!こっち!」
コーヒーの香りが漂うカフェは、中心地のメインストリートに位置している。
有名な店だけあって、休日の今日は特にカップルで溢れていた。
まさか、ここも二人で来た事があるとか?
一香を見るたびに、そんな事を考えてしまう。
端にあるソファー席に座ると、清々しい表情をした一香が笑顔を向けた。
「昨日はホントごめん!聡士とは話が盛り上がった?」
「あ、うん。というより、会社で毎日会うから」
ドキドキする。
変な緊張感が、体全体に駆け巡るのが分かった。
そして、思わず目をそらした私に、一香は言ったのだった。
「聡士の事、もっと仲良くしてやって欲しいんだ。由衣となら、きっとうまくいくと思うんだけど…」