親友を好きな彼
そうだった。
同じ部署に男性社員が入社をしてくるって、社内でも相当の噂になっていたのを忘れていた。
「わざわざヘッドハンティングしてきたのよね?どんな人だろ?」
私の質問に、足早にオフィスに戻る亜子は、『分からない』と言いたそうに肩をすくめた。
大手機械メーカーのこの会社は、主に法人向けの販売がメインで、特に本社であるここは、数字に対して最も厳しい。
その分、充実感はいっぱいだけれど、そんな場所にヘッドハンティングをされてくるなんて、よほどの人物に違いなかった。
「あっ、そうだ。一つ聞いていた事があったのよ。確か、私や由依と同じ歳の人のはずよ」
「同じ歳!?」
27歳でヘッドハンティング?
ますます、どういう人なのかが気になる。
もし、仕事がそんなに出来る人なら、絶対に仲良くならなきゃ。
とにかく今は、仕事に打ち込みたい。
こんなモヤモヤする気持ちなんて、もう持ちたくないから。
亜子の一歩後ろをついて行きながら、オフィス内に入った私の目に飛び込んできたのは…。
思わず、吸い込まれそうになるくらい、しなやかに立っている男の人だった。
しなやかと言っても、線はがっしりとしていて背も高い。
ルックスも、甘さより力強い男らしさがある。
目鼻立ちがはっきりとしていて、口角を小さく上げた微笑みには余裕すら感じられた。
それなのに、立ち姿は上品な感じだ。
「おお!佐倉に佐伯。こっちへ並べ」
オフィスに入ったところで立ち止まっていた私たちを、上司が気付き手招きをする。
「は、はい…」
法人営業課のこのオフィス内は、40人ほどがおり、すでに皆が立ち上がり上司の側に立っている“彼”に目を向けていた。
「あの人が、新しく入社してきた人…?」
呟く様な私の言葉に、亜子は反応をする事もなく、やっぱり呆然とした様子で、その人の近くへと行ったのだった。