親友を好きな彼


「じゃあ、何度か打ち合わせが必要だな。かなり大規模なプロモーションじゃないか」

一通り資料に目を通した大翔が、感心した様にそう言った。

「当たり前だろ?今回の新車は、ただの新車じゃないんだよ。かなり技術的にも進化した…」

聡士の熱いアピールも、なぜだか私の耳から通り抜けていく。

どうしたのかと言いたいくらい、頭が大翔でいっぱいだ。

「それにしても、会社がそこまで力を入れて発売する車のプロモーションを、由衣と聡士が担当するなんて凄いじゃないか」

「えっ?あ、うん…」

“由衣”

久しぶりに大翔から呼ばれた名前に、ただ返事をするしか出来なかった。

だけど、確実に胸はさっきより、ときめいている。

「何だよ、その上から目線は」

聡士は相変わらず、大翔には食ってかかっていた。

こんな風に二人を見ていると、聡士が子供ぽいのか、それとも大翔が大人なのか分からない。

「あ、あの…。大翔…」

ぎこちない呼びかけに、二人が反応する。

いちいち、聡士が反応してくれなくてもいいんだけど。

「どうした?由衣」

まるで、付き合っている頃と変わらない話し方をする大翔に、気持ちは一気に加速した。

「また、また会えるよね?」

つい口から出た言葉に、大翔は小さく笑った。

「当たり前だろ?だいたい、次の打ち合わせは明後日なんだから」

はにかむ笑顔を向ける私に、大翔はもう一度笑顔をくれたのだった。

「佐倉、時間だ。そろそろ行こう」

半ば強引に聡士に促され、私たちはホテルを後にした。

「一回、会社に戻るだろ?俺、車で来てるから一緒に戻ろう」

「うん…」

ダメだ。

頭がボーッとする。

コインパーキングに停めてある社用車に乗り込むと、聡士がぶっきらぼうに言ったのだった。

「お前さ、何ボーッとしてるんだよ?」

「えっ!?」

「大翔に会えた事が、そんなに嬉しかったか?」

図星なだけに、何も言い返せない。

やっぱり、聡士は気付いていた…。

「あいつ、もう彼女いるかもしれないじゃん。再会したくらいで、浮かれるなよ」

「うるさいわね!」

あんたに何が分かるって言うのよ。

「私、一人で帰る!」

信号待ちで停まった瞬間、助手席のドアを開けると車を降りたのだった。

「あっ!おい、佐倉!」

聡士に何が分かるっていうのよ。

私と大翔の事を知らないくせに、偉そうに言わないで。


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