親友を好きな彼
車とは反対方向に速足で歩きながら、思い出していた。
大翔と付き合っていた頃を…。
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あれは確か、別れるきっかけになったクリスマスだった。
「今夜は雪になるんだって」
「じゃあ、ホワイトクリスマスだな」
私の手を握る力を強めて、大翔は笑顔を向けた。
社会人二年目の私たちは、仕事が順調で毎日が充実している。
大翔とは週に1、2回しか会えないけれど、それでも会える日は、お互いの温もりを確かめ合っていた。
そしてクリスマスの今夜も、大翔の家で過ごしている。
ついさっきまで重なり合っていた私たちは、服に着替えて、小さなケーキで乾杯をしていたのだった。
「あっ、ほら外見て!雪が降ってる」
ちらちらと舞う雪が窓越しに見えて、興奮した私を大翔は抱きしめてきた。
「ひ、大翔?」
「雪もいいけどさ、オレの事も見てよ」
髪を優しく撫でながら、耳元で囁く。
ほのかに香る香水は、大翔がずっとつけているもの。
この匂いと低い声に、クラクラとしてくる。
すっかり雪の存在を忘れた私は、大翔の背中に手を回していた。
「由衣…。愛してる」
大翔はゆっくりと唇を重ねながら、そのまま床へと押し倒した。
「大翔、私も…」
息も出来ないくらいのキスに、私をどこまでも包み込む手。
どこまでも、どこまでも大翔を感じる私は、部屋中に響き渡るくらいの甘い声を出していた。
ずっとずっと側にいたい。
大翔…。
どんなに抱き合っていても足りない。
もっと、もっと側にいたい…。
「なあ、由衣」
「うん?」
外はきっと寒さが厳しいだろうけれど、大翔の側にいると暖かい。
胸に顔を埋め、目を閉じていると、大翔から思いもよらぬ言葉が出てきたのだった。
「結婚…。オレとの結婚を考えてくれないか?」
「け、結婚!?」
思わず体を離して起き上がると、大翔を見下ろした。
すると大翔も起き上がり、座ると私の両手を握ったのだった。
「考えて欲しいんだ。真剣に」
「……」
どうしよう…。どうしよう…。
大翔との結婚を、想像していなかったわけじゃない。
だけど今は…。
「もう一度、きちんとしたプロポーズはしたいから。由衣も心の中で、考えていて欲しいんだ」