親友を好きな彼


結婚…。

私と大翔が…。

夢が急に現実になったみたいだ。

いつかは結婚をしてみたいと思う。

その相手は、もちろん大翔じゃないと嫌。

その気持ちに嘘はないのに…。

仕事が面白くなってきて、一人の時間も恋愛の時間も楽しいばかり。

それを、“結婚”という形で失うのが怖い。

大翔なら、きっと共働きも許してくれるだろう。

だけど、生活に追われる毎日を想像するだけでも、尻込みしてしまう。

好きだけど…。

大翔の事は大好きで、愛してる。

ずっとずっと、側にいたい。

だけど、やっぱり…。

数日考えた後、私は大翔に気持ちを伝えたのだった。

年末も近い、寒い日。

小雪がちらつく夜に、私は大翔に会った。

「ごめんなさい。結婚は…、まだ無理」

「え?」

固まった様に、大翔の顔は険しくなった。

「まだ、仕事だけに打ち込みたいし…。大翔とは、ドキドキする恋愛関係でいたいの」

そう返事をした私に、大翔は『そっか…』とだけ答えて…。

年が明けてすぐ、私はフラれた。

理由は、結婚を断った事。

私と真剣に未来を見たかった大翔にとって、そうじゃない私といる事は辛いからと。

好きだから別れたいと、そう言われたのだった。

失ってみて、初めて気付いた存在。

空虚に感じて、ひたすら仕事に没頭したこの二年は、私にとって大翔に未練が残っていたからだと、改めて分かった気がする。

再会が、こんなに嬉しいとは思わなかった。

「由衣!」

あてもなく歩いていると、後ろから大翔の声が聞こえた。

緊張と嬉しさと、半々の気持ちでゆっくり振り返ると、小走りで駆けてくる姿が見えたのだった。

「もう戻ったのかと思ったのに。まだ、この辺りに仕事なのか?」

「う、うん…。アポではないんだけど」

目の前に立つ大翔を見ながら、黒いスーツがよく似合うなと感心する。

きっと、ホテルのお客さんから、ファンが生まれるよ。

俯きがちな私に、大翔は昔と変わらず優しく声をかける。

「だけど、本当に驚いた。由衣の勤めてる会社だとは覚えてたけど、まさか由衣が担当だなんてな」

「わ、私もだよ…。まさか、大翔が転職してるなんて思わなかったから」

「そうだよな。それにしても、由衣が元気そうで良かったよ」

笑顔の大翔に、私も笑顔を返す。

何気ない会話も、こんなに楽しいなんて…。


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