親友を好きな彼


大翔とご飯を食べた場所は、付き合っていた頃お互いがお気に入りだった洋食の店。

誕生日や記念日には、必ず訪れていたけれど、別れた後は一度も来ていない。

それは大翔も同じらしかった。

つかの間の思い出を楽しむと、“付き合って欲しい”と言われた場所へと車で向かう。

「一体、どこに行くの?」

「忘れた?」

私の質問に大翔は優しく、でも少しだけ意地悪く聞き返した。

「えっと…」

窓の外を眺めると、先の方に大きな橋が見えてきた。

ライトアップされていて、車が行き交う姿も見える。

「あ…、思い出した!」

この橋のたもとには海が広がっていて、岸壁は橋からのライトで周りが照らされ、ロマンチックな雰囲気を出す場所だった。

夜景を楽しむカップルの車が、常に数台停まる場所でも有名だった。

頻繁に訪れていたわけではないけれど、私たちも来た事がある。

車は眺めのいい位置で停車をし、エンジンが止まった。

「ちょっとだけ、外に出ようか?」

「うん」

夜風は冷たいけれど、大翔が昔の様に手を絡めてくれるから寒くない。

少し向こうにも数組、カップルが見える。

みんな幸せそう…。

「付き合ってた頃を思い出すね」

「そうだな。あの頃は、どんな話をしてたっけな…」

そう言われてみれば、どんな話をしていただろう。

思い出せないけれど、楽しかった事だけは間違いない。

「なあ由衣」

「何?」

静かに波打つ音に聞きいっていると、大翔がふいに呼びかけた。

「どうしても、ずっと聞きたかった事があったんだけど…」

「聞きたかった事?」

思わず顔を向けると、少し恥ずかしそうにしている。

「由衣がプロポーズを断った時、俺との事はドキドキする恋愛関係でいたいって言ってたろ?」

「あ、うん…」

覚えてたんだ。

確かに言った。

「あれは、俺は由衣にとって、一生一緒にいられる相手には見えてなかったって事か?」

「え?どういう意味?」

「その…、つまり結婚相手にはなれなかったって事」

罰悪そうに答える大翔に、愕然としてしまった。

そんな風に捉えられていたの?

「違う!あれは、“まだ”っていう意味だったの。まだ、結婚に踏み切れないって…」

ウソ…。

大翔かあの言葉を、誤解して受け止めていたなんて…。


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