親友を好きな彼


「おはようございます」

いつもと変わらない出勤の中で、ひとつ違うのは、ほんの数時間前まで聡士と抱き合っていた事。

あんなに明け方まで抱き合っていたのに、早朝には帰ってきちんと仕度をして仕事に来ている。

そこは、感心するけれど…。

「おはよう佐倉」

「おはよう、嶋谷くん」

事務的な挨拶をし、お互い何事もなかったかの様に仕事をする。

そんな事が自分に出来るんだと、今さらながら新発見をした気分だ。

今日は大翔とのアポはなく、一日お得意回り。

そんなスケジュールを確認していると、

「由衣、今日ちょっと時間空かない?」

亜子が声をかけてきた。

きっと、聡士の事だわ。

昨日も何か言いたそうだったし。

覚悟を決めて、「午前中なら大丈夫」と答えたのだった。

「良かった。じゃあ、出る時に声をかけて。私はいつでもいいから」

ホッとした様に、亜子はデスクへと戻って行った。

すると、聡士がイスを滑らせ小声で話しかけてきたのだった。

「佐伯、何か切羽詰まった感じじゃねえか?」

目線は亜子に向け、聡士は不審がっている。

そうか。

亜子に聡士との関係を話しているって、本人は知らないものね。

「そうね。仕事の悩みじゃない?」

あくまで、噂は知らない振りだ。

適当にあしらうと、午後の準備を整え、亜子を誘いに行ったのだった。

「じゃあ、出ましょ」

亜子もカバンを掴むと、足速にオフィスを出る。

相当、急いでいるみたいだ。

「亜子?何かあったの?」

会社から少し離れた頃、そう聞いた私に、亜子は険しい顔を向けた。

「何かあったのは由衣でしょ?今度の新車のプロモーション、大翔くんだっけ?元彼が一緒なのよね?」

早口でまくしたてる亜子に、一緒呆然とした。

「何で知ってるの?」

「…聞いたからよ」

「誰に?」

一呼吸置き、ゆっくりと亜子は答えた。

「嶋谷くんに」

「聡士に!?何で!?」

何でそんな事を亜子に話すの?

というより、一体いつの間に二人は、そんな話をしていたのよ。

混乱する私の腕を軽く引っ張ると、亜子は近くのカフェに入った。

「とにかく、由衣の話を聞かせて」


< 68 / 138 >

この作品をシェア

pagetop