親友を好きな彼


不幸になるって…。

「聡士くんは、一香の話はしなかったけれど…」

「けれど?」

言いにくそうに、だけどさらに表情を引き締めて言ったのだった。

「聡士くんね、ずっと忘れられない好きな人がいるって言っていたのよ」

「え…?」

今さら驚くのも変だけれど、改めて聞かされるとショックが大きい。

「それは、一香の事でしょ?」

亜子に確かめる様に聞かれ、頷くしかなかった。

そして、うなだれる私にさらに話を続けたのだった。

「それでも彼が、本気で由衣を好きになったなら、それはいい事だと思うの」

「うん…」

「だけど、一香との関係が続いている限り、由衣が利用されている様に思えるんだもん」

亜子は、今にも泣きそうな顔だ。

「聡士くんね、私にその話をしてきたのは、由衣と仲がいい事を知っているから」

「そう…」

その発想は自然だ。

自分が逆の立場でも、そうしたと思う。

「ねえ、聡士くんは一香が私たちと同期だった事も、当然知っているはずよね?」

「あ…!」

そうだ。

今まで気にしてなかったけれど、一香が働いていた事は知っているはずだ。

「同じ歳なんだから、私も由衣も一香と同期なくらい、ちょっと考えれば気が付くわよね?」

「うん。気が付くはずよ」

「それなのに、由衣に近付いたの?そもそも、何で、うちの会社のヘッドハンティングなんて受けたんだろう?」

「え?」

そんな事、考えてもみなかった。

けれど、言われてみれば確かにそうだ。

「違う会社にいて、わざわざ一香が勤めていた会社に転職して、そして由衣に近付いた」

亜子の言葉に、背筋が冷たくなる。

「彼、何かを隠してる気がするのよ」

「何かって?」

「よく分からない。だけど、本心はきっと由衣に隠してる」

亜子が、以前よりずっと聡士との関係に反対色を出しているのは、それに気付いたかららしい。

「由衣が気になっているのは確かだと思うの。だけど、それは本当に好きだからじゃない。違う理由がある気がする…」

突然の衝撃的な話に、言葉を見失った。

聡士は、何を隠しているの?

何かを、隠しているの…?


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