親友を好きな彼
亜子の言葉は衝撃的過ぎて、ショックを隠せなかった。
聡士の行動は怪し過ぎるからと、私に距離を置く様に助言してきたのだった。
そんな事を聞いて、午後のアポなんて、全部キャンセルしたい、そんな投げやりな気持ちでいっぱいだ。
やっぱり、距離を置こう。
大翔からの告白にも、誠実に答えなきゃいけないし。
このままでいいはずは…、ないんだわ。
自分でそう考えたら、いてもたってもいられなくなり、気が付いたら聡士にメールを打っていた。
『話があるから、今夜少し会いたい』
そのOKの返事は1時間後に帰ってきた。
もう流されない。
絶対に…。
――――
―――
「お疲れ、由衣」
何も知らない聡士は、夜の待ち合わせ場所へ、笑顔でやって来た。
今日も新しい契約が結べたとかで、社内でも噂になっている。
だからか、いつも以上に機嫌がいい。
「お疲れ様…」
こういう笑顔を見ると、揺らぎそうになる心に喝を入れて、笑顔を消して聡士に話した。
「聡士、私ねもうプライベートでは会わないって決めたから」
「え?」
突然の事に、聡士はまるで意味が理解できていない雰囲気だ。
付き合ってもいないのに、まるで別れ話みたいな感じなのはおかしな気分だけれど…。
「いろいろ考えたの。大翔との事を真剣に考えたいから、聡士との関係は終わりにしたい」
「終わりにしたいって…?」
「だから、その意味の通り。もう仕事以外では会わないから」
それまであった笑顔は消え、聡士は何かを考えている様だった。
「大翔の事、本気なのか?今さら…」
「今さら?大翔はこの二年間、ずっと私を想って、やり直そうと言ってくれたの。今さらなんかじゃない」
そうよ。
一香を重ねながら想われるのと、私だけをずっと見てくれる人と、どちらが大事?
このまま聡士と続けば、私は一香も嫌いになる。
もう、この辺りで引き返さなきゃ。
「だから、もう家にも会いに来ないでね」
そう言うと、力無く聡士は答えた。
「分かった…」
思ったよりずっと、あっさり引かれて少し拍子抜けだ。
だけど、これでいい。
「仕事は頑張ろうね。“嶋谷くん”」
そう言い残し、私は夜の人混みへと戻って行った。
聡士を振り返らずに…。