親友を好きな彼
「え?聡士?」
思わず声をあげた私に反応して、大翔が窓に目を移した。
「見られちゃったかな?」
少しも気にする風ではなく、大翔は運転席を開けると車から出る。
「由衣も出てこいよ」
大翔に促され、気まずい気持ちで車を降りた。
何でだろう…。
聡士に対して、やましい事なんてしていないはずなのに、この罪悪感の様な気分を持つなんて。
「よ、よお。なんか、スゲー事してるカップルがいると思ったら、お前たちだったんだ」
聡士は少し動揺している様にも見えたけれど、いつもの明るい調子でそう言った。
「まさか、お前がここを通るとは思わなかったよ」
「たまに通るだろ?ちょっとコンビニに買い出し。それにしても、由衣が大翔の元カノだって事は知っていたけど、二人やり直すのか?」
「そういう事を、ここで聞くなよな」
二人のやり取りなんて耳に入らない。
それより、聡士はどう思っただろう…。
確かに、大翔との事を真剣に考えたいから、関係を終わらせようとは言った。
だけど、その翌日にはキスを見られて、結局軽い女だと思われたかもしれない。
全然、誠実には見えないだろうな…。
「今からどうするの?二人」
少し目線を私に合わせた聡士は、そんな核心部分を突いてきた。
「ああ、由衣をうちに呼んだところだから。今着いたばかりなんだ」
「そっか…。じゃあ、邪魔にならない内に、俺は行くよ」
「サンキュ。じゃあ、またな」
聡士と大翔は軽く手を上げてそう言うと、聡士はそのままコンビニへと向かい、大翔は私に顔を向けた。
「行こう、由衣」
「うん…」
手を取られ、二階建てのアパートへと案内された。
新しい感じではないけれど、モダンな造りで女性も住んでいる様な雰囲気のアパートだった。
「俺の部屋は一階なんだ。二階は女性が占領しているよ」
苦笑いの大翔に、私もぎこちない笑顔を向ける。
ヤバイ…。聡士が頭から離れない。
どうやら今夜は一人らしい。
一香のところへ行く感じでもないし、晩御飯をコンビニにでも買いに行ったのだろうか?
簡単に食事を済ませるなんて、体に悪いって。
そんな事を考えてしまい、目の前の大翔に集中出来ない。
だけど、私の気持ちとは反対に、大翔は部屋へ入るなり、ベッドへと押し倒してきたのだった。
1Kのアパートは、部屋に入るとすぐにベッドが置いてある。
「いいだろ?由衣。二年前を思い出そう…」
大翔だってこんなんじゃなかった。
付き合っていた頃は、もっと優しかったし、少なくとも強引に抱いたりはしなかったのに。
やっぱり変わってる。
大翔も私も…。
二年前とは明らかに。
「うん…、いいよ」
だけど、ここまで来て拒む事は出来ない。
そもそも、聡士の事を忘れたいんだから。
大翔は、私からの返事を聞くと、キスをしながら乱暴に服を脱がせた。
違う、違う。
何かが違う…。
優しく、そして愛おしく私を抱いていた時とは違う。
漏れる声は、どこかわざとらしくて、感じている振りをしながら大翔の体に手を回す。
だけど、やっぱりダメ…。
思い出すのは、聡士に抱かれていた夜ばかり。
愛のない関係なのに、大翔に抱かれる強さが増す度に、私は聡士を思い出すのだった。