203号室の眠り姫
訪問者
風薫る、五月。
初夏、一年でいちばん爽やかな季節に、ひとりの少年が桜ヶ丘病院の門をくぐった。
「こんにちは。今日はどのようなご用事で」
受け付け付近で、居心地が悪そうにうろうろしていた少年を見兼ねて、看護婦が声をかける。
「あの、面会ってできますか?」
看護婦は丁寧な調子で、できますよ、面会したい方の御名前は、と返した。
少年は戸惑いながら、口を開いた。
「伊藤すみれ……です」
今度は看護婦が戸惑う番だった。
伊藤すみれ。
あの「眠り姫」の名前ではないか。
彼女に面会に来る人はいないはずでは。
再度確認をすると、少年は、
「はい、間違いありません」
その声に、迷いの音色はなかった。
看護婦はさらに問いかける。
「失礼ですが、あなたと伊藤さんの関係は……?」
すこしの間をあけて、少年が答えた。
「彼女の、幼馴染です」
初夏、一年でいちばん爽やかな季節に、ひとりの少年が桜ヶ丘病院の門をくぐった。
「こんにちは。今日はどのようなご用事で」
受け付け付近で、居心地が悪そうにうろうろしていた少年を見兼ねて、看護婦が声をかける。
「あの、面会ってできますか?」
看護婦は丁寧な調子で、できますよ、面会したい方の御名前は、と返した。
少年は戸惑いながら、口を開いた。
「伊藤すみれ……です」
今度は看護婦が戸惑う番だった。
伊藤すみれ。
あの「眠り姫」の名前ではないか。
彼女に面会に来る人はいないはずでは。
再度確認をすると、少年は、
「はい、間違いありません」
その声に、迷いの音色はなかった。
看護婦はさらに問いかける。
「失礼ですが、あなたと伊藤さんの関係は……?」
すこしの間をあけて、少年が答えた。
「彼女の、幼馴染です」