203号室の眠り姫
少年は一般病棟の、いちばん奥の203号室に通された。
平日の昼下がり、明るい静寂。
ときどき、外の木々が風に揺れ、さわさわと軽やかな歌声を奏でる。

「それでは、ごゆっくりどうぞー」

ばたん、とドアが小さい音を立てて閉まる。少年、寺崎誠は病室に取り残された。


淡い光にあふれた窓辺の、簡素な白いベッドの上に、彼女はいた。

まだ幼さが残る、やわらかな頬の輪郭を漆黒の髪の上に横たえ、人形のようにそこにたたずんでいる。
肌を這ういくつもの管は、呼吸を助け、生命を維持するためのもの。

その瞳はかたく閉じられていた。

変わり果てた幼馴染の姿。
誠は言葉をうしなった。
だが気をとり直し、ベッドのそばの、誰も座ることのなかったパイプイスに腰かけた。
しばしの沈黙。
少年はぽつり、ぽつりと話しはじめた。

「……ひさしぶりだね」

少女は答えない。

「ごめんね、今まで会いに来れなくて」


誠がこのタイミングでやって来たのには訳があった。

すみれが入院したと聞いたとき、彼はすぐにでも駆けつけたい気持ちだった。

それができなかったのは、入院先を知っているすみれの祖母が場所を教えてくれなかったからだった。

すみれの祖母は老人ホームに入っているので、住処に乗りこんで聞き出すこともできない。誠は自分は嫌われているに違いないと思った。

しかしそれがどういうことか、先日、誠あてに、すみれの入院先の場所を添えた手紙を書いてよこしてきた。
「連絡先は教えるから、ときどきすみれの様子を見にいってやれ」と。

その意図はわからない。
ただ、結果として誠はすみれに会えた。
彼にとってはそれだけで満足だった。

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