203号室の眠り姫
「幼稚園の頃だったかなぁ。ねえ、覚えてる?ふたりで街を冒険したこと」
答は帰ってこない。
それでも、誠は続ける。
「すみれちゃん、結局泣いちゃったよね。お家に帰りたいって」
なにがすみれをこんな状態にしたのか。
誠にはすぐにわかった。
「弟さんが生まれたときはすごくうれしそうだった」
それは、家族の記憶。
幸せだった頃の、思い出。
「お父さんの誕生日にプレゼントあげるんだって、お小遣い貯めてたっけ」
すみれにとって、家族は何よりも大切なものだった。彼女のそういう性質はよく分かっているつもりだった。
「……でも、みんな死んでしまって…」
夢のなかなら、死んだ家族に会える。
あの穏やかで幸福な日々を取り戻せる。
すみれの精神はこれからも未来永劫、幸せな夢のなかを漂うだろう。
それが虚構であると知りながらも。
「……辛かっただろうね。寂しかっただろうね」
それが、すみれ自身の選択。
紛れもない、彼女の意志。
そこに他人の思いなど入り込む余地はない。
わかっていた。
わかっていたけど、どうしようもなく、悲しかった。
「……言ってくれれば…力になれたのに…ひとりで抱えこむ必要ないのに……」
あの時、せめてひとこと、淋しいと言ってくれれば。
信じて、頼ってくれれば。
「僕じゃ、力不足だったかな…?」
君を思っている人は、こんなに近くにいるのに。
どうして君は、遠くに行ってしまったのだろう。
次章、やっとすみれsideです
答は帰ってこない。
それでも、誠は続ける。
「すみれちゃん、結局泣いちゃったよね。お家に帰りたいって」
なにがすみれをこんな状態にしたのか。
誠にはすぐにわかった。
「弟さんが生まれたときはすごくうれしそうだった」
それは、家族の記憶。
幸せだった頃の、思い出。
「お父さんの誕生日にプレゼントあげるんだって、お小遣い貯めてたっけ」
すみれにとって、家族は何よりも大切なものだった。彼女のそういう性質はよく分かっているつもりだった。
「……でも、みんな死んでしまって…」
夢のなかなら、死んだ家族に会える。
あの穏やかで幸福な日々を取り戻せる。
すみれの精神はこれからも未来永劫、幸せな夢のなかを漂うだろう。
それが虚構であると知りながらも。
「……辛かっただろうね。寂しかっただろうね」
それが、すみれ自身の選択。
紛れもない、彼女の意志。
そこに他人の思いなど入り込む余地はない。
わかっていた。
わかっていたけど、どうしようもなく、悲しかった。
「……言ってくれれば…力になれたのに…ひとりで抱えこむ必要ないのに……」
あの時、せめてひとこと、淋しいと言ってくれれば。
信じて、頼ってくれれば。
「僕じゃ、力不足だったかな…?」
君を思っている人は、こんなに近くにいるのに。
どうして君は、遠くに行ってしまったのだろう。
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