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頭上から悲鳴が聞こえる。
腰や肘が、少し痛い。
不思議と、茅野本人だけが、落ち着いていた。
投げ出されたリュックサックを引き寄せる。

足元へ転がってきたものに、目の前の生き物は顔を近付ける。
興味深いのか、じっと見つめたり角度を変えて眺めたりする姿に、茅野は、どこか違和感を感じた。

普通ならば近付いてきたものには警戒心を示したり、とりあえず危険視して逃げるか攻撃するかしそうなものだ。
動物に詳しいわけではないが、本能として大抵の生物に備わっているはずである。

(なんか、人慣れしてる……?)

機嫌良さげに目を細めたその生き物は、不意に、かぱりと口を開いた。
間近に牙が見える。
トラックが突っ込んできたらこんな感じかな、と思うくらい、見たことのない大きさの口だ。

同級生たちの悲鳴が、どこか遠くで鳴っているBGMのように感じられた。
担任の教師の叫び声も聞こえる。

さらに迫る牙。
突然、照明が消えたように暗くなった。
視界を遮られたのか闇に呑まれたのか、それとも、視覚を奪われたのか。

ひゅう、と甲高い馬の嘶きのような声がする。
ごりごりという音が、頭蓋に響く。

なんかリアルだ、やだな、と思った。
あぁ、私死ぬのか、謎の生物に食べられて。


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