Z 0 0


そんなことを考えながら、自分が咀嚼される音をやり過ごしていたら、ふいに、

知らない場所にいた。



「あんた、そこで何やってんだ」


そう声をかけられて、茅野は緩慢に辺りを見回した。ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、人がいた。
いや、いなくなっていたのだ。
悲鳴を上げる同級生たちも、血相を変えて駆け付けていたはずの担任も。

下から見上げれば想像以上に高かったはずの檻の壁もどこにもなくて、代わりにいたのは、一人の青年だった。

ツナギの上に着たパーカーのフードを被って、眼鏡をかけている。
フードの両側には垂れたうさぎの耳のような飾りがついていて、白い眼鏡のフレームには、紺のラインがぐるりと入っていた。

なんだこの人、とぼんやり考えながら、その人を眺める。
どうやら自分は状況を理解できていないらしい、ということを理解した。
気づかないうちに気絶でもして、檻の外に運ばれていたのだろうか。
こんなに広い場所があの動物園にあったか、思い出せない。

ゆっくりと五度目の瞬きをしてはじめて気付いたのは、自分と青年との間に、太い金属の柵のようなものがある、ということだ。
まるで檻みたい。

そう思っていたら、うさ耳フードの男はまた、言った。


「もう閉園時間は過ぎただろ。檻から出られなくなったのか?」


本当に檻だったらしい。
茅野は、色々なことを考える前に、とりあえず口を開いてみることにした。


< 11 / 49 >

この作品をシェア

pagetop