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ゾーンにはそれぞれ一人か二人の担当飼育員が決められており、『緑のゾーン』には彼の他にもう一人、担当がいる。
その人物は今、台車を押しながらおどおどと隠れるようにして条のあとをついて来ていた。

ラビが二人を見て、口を開く。


「条、森。遅いじゃねーか、こっち手伝う予定だったろ」
「すいません。森がヒヨコに襲われちゃってー」


森(もり)という名前が出た途端、条の後ろで小柄なその少女がびくりと肩を竦めた。

くるくると癖づいたアッシュブラウンのショートヘアに、大きなたれ目。
その頭の上には、ネズミのような丸い耳がついている。
といっても、ラビがよく被っているようなフードや帽子についた作り物の耳ではなく、彼女のものは正真正銘本物の耳だ。
ショート丈のツナギから伸びる白い脚も細い腕も、人間のものと少しも変わらないように見えるが、森はこの世界では当たり前にどこにでもいる、『獣人』と呼ばれる種族なのだ。

彼女のツナギは茅野と同じ薄い黄色だが、特注の森仕様で、ちゃんと長いネズミの尻尾が腰のあたりから出てくるようになっている。
茅野ははじめこそコスプレ趣味の変わった子かと思っていたが、この世界では耳も尻尾も常識らしい。


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