執事の戯言
愛する人を泣かせてしまった。
「……すみません」
それしか出てこなかった。
「ち、違うの!」
謝罪する俺に、お嬢様は必死に否定した。
「バカとか言ってごめんなさい。嬉しかったの。来てくれて。優が急に迫ってくるものだから、恥ずかしすぎて涙が出ただけなの……!」
ポロポロと涙を流しながらも、顔を赤くしながらも、俺に説明するお嬢様。
どん底に堕ちていた俺の心も、今の言葉でふわりと上がった。
何かの糸が切れたかのように、笑いが込み上げてきて、整えていたオールバックの髪を乱した。
「優?」
──愛しい。
じりじりと詰め寄り、彼女を壁に追い込んだ。
俺よりも小さい彼女は、俺の腕を彼女の頭上で壁につくと、すっぽりと覆い囲める。
「ちょっ……、優っ」
──好きだ。
あんな言葉を聞いたら、もう止められない。
「お嬢様、貴女は俺がいつも我慢していることを解ってて、あのような事を言うのですか?」