執事の戯言

執事のときは、一人称は“私”として呼んでいる。


だがこのときは、執事の仮面を完全にかぶる余裕は持ち合わせていなかった。


「”璃愛“……」


愛しくて堪らない女の名前を呼んだ。


身分上、向けてはならない想いと、呼んではならない呼び方で。


そして、低く、吐息を交えながら囁くように…。


耳に息が吹きかかり、直ぐに反応する璃愛の身体。


「んッ!……ゆ…う…?」


涙の溜まった目で見上げる姿は、俺の脳細胞を抹殺するかのような光景だった。


いや、璃愛なら脳細胞の1つや2つ。


いや、すべて璃愛に侵されても構わない。


「人の気も知らずに……。お仕置き、されたいのですか?」


語尾に合わせて右耳を一舐めした。


どうやらお嬢様は耳が弱いらしい。

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