執事の戯言
潤んだ目と目が合った。
「…お嬢様、拒むなら、今の内ですよ?」
拒まない確信はなかった。
お嬢様の麗しい唇を、指でなぞり、キスをすることを無言で伝える。
──心のどこかで拒んでくれることを望んでいる俺がいる。
じゃないと、本当にヤバイ……。
磁石のように、近づくお嬢様の唇。
いや、正確には近づけているんだけど。
もう無理だ。
いよいよ、俺が今まで保ってきた関係が壊れようとしたとき、不幸か幸運か。
こちらに近づく男子生徒の話し声が聞こえた。
そのせいで、触れるか触れないかの距離でピタリと止まってしまった。