矢刺さる先に花開く
――ひとつの命がこの世に生を受けたとき、もうひとつの命がこの世から消えようとしていた。
「基盛様が…!?」
重盛の弟・基盛が宇治川で溺れ、事切れてしまったのだ。
基盛の突然の死は、一門を悲しませた。
(基盛様…)
いつも明るく、皆を元気付けてくれていた基盛。
心優しく、周りには笑顔が絶えなかった基盛の姿をもう見ることはできないのだ、と思った経子も涙を流した。
隣では、普段はあまり表情が豊かとは言えない重盛もはらはらと涙を流している。
(殿にとって基盛様は…唯一の御母上がご一緒の弟君。一番御辛いのではないでしょうか……)
我が子の供養のつもりなのか、清盛は「厳島の社に経典を奉納する」と言い出した。