矢刺さる先に花開く
経子は、憲仁親王の立太子に際して高倉帝の乳母となっていた。
それに伴い、従五位上・典侍の位を賜り、重盛の官位から“大納言典侍”とも呼ばれている。
だから、経子は高倉帝のことをよく知っていたのだ。
「徳子殿、心配なさらずとも大丈夫ですよ」
経子が徳子に優しい声をかけた。
「帝は、穏やかでお優しい御方です。きっと徳子殿のことも大切になさって下さるはず」
「………誠、にござりまするか…?」
「はい。誠にお賢く、笛もお上手なのですよ」
「左様にござりましたか…。義姉上様、ありがとうござりました。父上のお役には立たせて頂きたいのですが、どうしても不安で……」
その言葉を聞き、経子はなんて良い心を持った娘なのだろうと思った。
役目を聞き入れ、それを果たそうと志している。
感動した経子は、徳子の手を握った。