矢刺さる先に花開く
「徳子…?」
「兄上…申し訳ござりませぬ。私が義姉上様に長うお時間を頂いてしまいました故、かように容態がお悪うなってしまったのです……。重五郎たちをどうか私にお任せ下さい」
強い瞳で重盛を見上げた徳子は、そう言い頭を下げた。
「…では、頼む」
重盛はそれだけ言い、徳子に子等を任せた。
だが、やはり幾度見舞っても経子の容態は芳しくないようで、和泉に止められるばかりだった。
仕方無く自室へ戻った重盛は、その場へ崩れ落ちた。
(経子……何故、そなたが…)
重盛の脳裏に浮かぶのは、子を抱き微笑む経子、からかわれ恥じらう経子、己の話を聞いてくれ、涙を流す経子…
(疫病は…治す薬が無い)
それは、己の母の件で嫌と言う程わかったこと。
――だが。
(そなたまで逝ってしまったら、私はどう致せば……っ…)
暗い自室で、重盛は静かに泣いた――。