矢刺さる先に花開く
母上と父上は、このお邸の主――経子殿とお話なさっておられるようだが、そんなことは気にならなかった。
「母上!」
「何事です、重盛」
その言葉を聞き、呆れた私は続けた。
「何事とは!かような時に源氏物語など…!?」
「まあ、源氏物語…。私も好きにございます」
鈴の音色のような可愛らしい声が聞こえたが、構っていられなかった。
「あら、良うござりますわよね!ほら重盛、経子殿も宜しいと――」
ちゃっかり開き直った母上。
「母上!」
「…重盛。かような時こそ、恋する気持ちと言うものを大切にすべきなのですよ」