矢刺さる先に花開く


気付くと経子の手は、重太の頬にゆっくりと伸びていた。


その時。


「重太さまー?」


侍女の声が聞こえ、慌てて手を引っ込める経子。


「…お行き」


重太を促すが、動こうとしない。


だが、重太を無理矢理追い出すような真似はしなかった。


「し、重太さまっ」


侍女がここまで来てしまった。


「北の方様に御迷惑をかけてはいけませぬ」


「別に、私は…」


「いいえ。申し訳ござりませぬ」


経子に謝った侍女は、重太を抱き上げるなり足早に去っていった。


去っていく侍女の肩から覗く重太の顔が、どこか寂しそうに歪んでいた。


ははうえ、と言う幼子の声が聞こえた気がした。


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