アメアガリ
寂しさを感じつつも、
歩きはじめて5分ほど。
「大平?」
黒い傘を持った彼がいた。
「……上崎?」
「何やってん、こんなとこで」
「…見たらわかるでしょ、家に向かってるの」
彼は笑いながらあたしに傘を差し出す。
「見たらわかるし!
ってか傘は?忘れたの?」
バカにされたように笑うから、
恥ずかしくなったあたしはうつむく。
「ほらよ、これ貸すから」
「は?いいよ、上崎濡れるでしょ?」
「別俺はいいよ。はい」
彼は強引にあたしの手に傘を持たせ、
走って去っていった。
「いいって言ったじゃん……」
濡れながら走る彼の背中につぶやく。
自分を犠牲にしてまで、
相手に優しくする。
なんか、コースケと似てる。
コースケそっくり。
こんなの、いらないのに
差し出された真黒の傘は、
あの日の事をもっと思い出す、
悲しすぎる色だった。