-spirit-スピリット-愛しい君へ-
“ドンッ!”

という音がして、勢いよく尻もちをついてしまった。

痛い・・・・っ。

そう思ったけど私は、それを口には出さずに顔をゆがませた。

痛いと言っても、誰も助けてくれる人はいないから。

でも、ぶつかった相手は私に大丈夫?と言って手を差し伸べてくれた。

私はそれに驚いた。

なんだこいつ・・・・。

私の事を気味悪がらないのか?

それともまだ私の事を知らないのか?

普段、人の顔を見ない私だけれど、

手を差し伸べてくれた相手が気になって

ついつい奴の顔を見上げてしまった。

黒髪に不似合いな青い瞳。

整った顔立ち。

この人はたしか、入学式の前、校門で女子に囲まれてキャーキャー騒がれていた人だ。

たしか、なまえは・・・・、

思い出せない。

何も言わずに私が奴の顔を見ていたせいか、奴はもう一度“大丈夫?”と聞いてきた。

私は、それに答えず自分の力で立ち上がり“すまない”とだけ言ってその場を立ち去った。

私とぶつかった時あいつの周りにはたくさんの女子がいた。

すぐにうわさは広まるだろう。

そしてそのうわさは、あいつにも伝わり、あいつは、私に手を差し伸べるなんて行為は、出来なくなるだろうな。

人間なんてしょせんそんなものだ。

自分とは異なると判断すると、そいつからすぐに離れて、そいつをののしりはじめる。

そうでもしないと退屈なのだろうな、あいつらは。

気づけばぬりかべは目の前からいなくなっていた。

そしてなぜか、他の霊や妖もいない。

珍しいことだな。

奴らが私の周りから消えるなんて、いつもは、まとわりついているくせにな。

私は1-Aにたどり着いて教室に入った。

椅子の裏に貼ってある名前シールをを見て、自分の名前を探す。

そして見つけた。

窓際の列の一番最後にある席の椅子に“久欄愛歌”とかかれているのを。

窓際の一番後ろの列・・・。

孤立している私にはちょうどいい席かもしれない。

そんな事を思い、自嘲気味に笑ってから席についた。

教室は、まだだれもいなく、とても静かだった。






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