瑛先生とわたし
5 公民館講座の世話役 三木さん


『三木工務店』 と書かれたミニバンが エンジンを唸らせながらやってきた

ミニバンのエンジン音って 三木さんそのものって思っちゃう

玄関を入るなり大きな声で話をはじめて この家の静かな雰囲気をぶち壊すの


あぁ イヤだなぁ

部屋を逃げ出したいけど いつもつかまってしまう

三木さんって無類の猫好きなの

私の姿が見えると駆け寄ってきて 必ず抱っこしてノドをなでてくれる

それはいいんだけど そのあとがねぇ

三木さんに抱っこされたまま 世間話を延々と聞かされるんだもの 

たまったもんじゃないわ

どうやって逃げ出そうかな 

そうだ! この窓から外に飛び出しちゃおう


私は少し開けられた出窓のガラス戸を頭で押して 勢い良く外にでた

ところが……それを見ていた三木さんに見つかって

ほら こっちにおいで ってポケットから出されたえさに釣られてしまった……

情けないったらないわね

えさに釣られた自分もイヤだけど 結局三木さんの膝で 

ゴロゴロとノドを鳴らすことになっちゃうんだもの







「先生の部屋は なんですなぁ いつも墨の匂いがする やっぱりあれですか 

お相手も書道の先生がいいでしょうかね

それならそれで 私にもちっとばかし心当たりがあるんですが」


「三木さんは書道連盟にも顔が利くんですか すごいなぁ」


「またそうやって話をはぐらかす 

今日はきっちり先生の好みと条件を聞きますよ 

そうでなきゃ女房にまた怒られる」


「はぐらかしちゃいませんよ 三木さんの顔の広さに感心したんですよ 

この前だって 華道の先生の縁談をまとめたそうじゃありませんか

お相手は草花に詳しい人だそうですね 奥さんから聞きましたよ 

相手は蘭の品評会の理事さんの紹介だってね」



瑛先生がぐっと身を乗り出して 私のまとめた縁談話に興味を示してきた

よーし この調子で話を進めて 先生本人の意向を聞きだすとするか

今日は手ぶらじゃ帰れない 

「アンタ また聞いてこなかったの? 

そんなんじゃ いつまでたっても花房先生に恩返しできないじゃないの」 

って 女房に小言を言われるのはわかってるからな

ここはひとつ 縁起のいい話をして攻めていくか




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