瑛先生とわたし
「そうなんですよ 私のなくなった伯父が蘭の愛好家でしてね
形見分けに蘭の鉢をもらったんですが 育て方がわからない
で さっそく詳しい人に聞きに行ったら
”三木さん 同好会に入りませんか 親睦会もありますよ”
ってんで 何もわからないまま入会ですよ
でも まぁ そのツテで今回の話はまとまったんですけどね」
「蘭の愛好者からたどって 花の好きな女性を再婚相手に探してる人を
見つけるなんて そのひらめきには驚くばかりですね
奥さんから聞いて さすが三木さんだって思いましたから」
「いやぁ そんなこともないですが 今回の縁談については
女房も私を見直したって言ってましてね
たまには点数もかせいどかないと」
「さすがだなぁ 三木さんの人脈はどこまで広いんですか
そうだ 相談したいことがあるんですが」
「なんですか 私にわかることならお聞きしますよ」
瑛先生は シルバー講座の北川さんから相談されたんですがと前置きして
講座のみなさんと一緒に 隣りの県まで書の展覧会を見に行くのに
日帰りが大変だから どこかゆっくりできる宿に一泊したいらしく
年寄りが多いため 融通の利く温泉旅館を知らないかと相談を持ちかけてきた
一寸考えて そうだ と思い当たった
「私の高校の同級生の親戚がやっている旅館がありましてね
こう言っちゃなんですが 建物も古いし仲居も若くない
ひなびたって言葉がピッタリあてはまるような宿ですが
そこでよければ すぐにでも連絡を取ってみますが」
「いいですね ひなびた旅館か いいじゃないですか
私もご一緒することになってるので
ぜひそこを紹介してください そうだ 三木さんも一緒にどうですか」
「私もですか? それは嬉しいなあ
シルバー講座のみなさんなら気心も知れてる
それにお世辞抜きでその宿の温泉は良い湯なんですよ
良質の源泉があるらしくて」
「三木さんが一緒なら みなさんも安心されるでしょう
宿の方にも顔が効く そうしてもらえると助かります」
それじゃぁ とさっそく同級生に連絡を取り宿の手配を頼み その場で
日程の打ち合わせを始めた
自分で言うのもなんだが 段取りを任されたら この辺じゃ右に出るものは
いないと思っている
人を知っているってのも強みだが いろんな場合を想定して あらゆることに
対応し最適な方法を選び出していく
これは工務店の仕事に大きく通ずるものであり ”三木さん頼むよ”
と言われると悪い気はしないもんだ
今日だって ”三木さん 頼りにしてます” って瑛先生に言われたから
こうして入念に打ち合わせをした
おだてられたわけじゃないが 先生は実に褒め上手だ
”三木さんはさすがだなぁ” と言われると
本当にその気になってしまうんだから
それも 持ち上げてる感じじゃなく 心から思ってるって顔で言われるんだ
断れるわけがない
「わかりました それじゃぁ 詳しいことが決まったら
あとでFAXで送りますから 今日はこれで失礼します」
と 片手を上げ機嫌よく挨拶をし 先生の家を後にした