瑛先生とわたし
今日こそ瑛先生の気持ちを聞いてくるぞ と勇んで家を出掛けた
真佐子にも 「作戦があるから 任せとけ」 と大風呂敷を広げてきた
作戦というのは まずは 『猫の縁談』 をまとめることだ
ウチにいる三匹の猫はそろって適齢期のオスで この息子達と瑛先生の家の
マーヤを見合いさせようって寸法だ
それが成功して マーヤに家庭ができれば 先生もその気になるんじゃないか
我ながら妙案だと思ったんだがなぁ……
「マーヤですか まだ考えていません マーヤのことは娘だと思っているので」
こんな風に言われちゃ ”そこをなんとか!” とは言えないだろう
結局 先生の縁談どころか 猫の縁談にも失敗して帰宅する羽目になった
迎えてくれた女房は 猫ちゃんのほうは仕方ありませんけど
瑛先生のことは諦めませんよ
私たちの手で幸せにして差し上げましょうよ と ますます意欲的になっていた
そうだな 根気良く通うしかないか
しかし ウチの息子達の嫁はどうする と真佐子に聞くと
「菜々子先生に相談してみましょうか」 と妙案を出してくれた
そうだ あそこならイイコを紹介してくれるだろう
お前たち 3匹まとめて面倒をみてもらうか
足元に寄ってきた3匹に 器量良しのメス猫を迎える日を思い描いた
子猫が生まれて また賑やかになるだろうな
子どものいない我々の家を チビ猫が走り回る日はそう遠くないのかもな
「マーヤちゃん 寝ちゃいましたね 可愛い寝顔 幸せそうな顔をして
先生のお膝がいいんですね」
「三木さんが来た日はいつもこうだ
あの人 猫を心地良くする術を知っているのかもしれませんね」
「猫ちゃんだけじゃないですよ みなさん 何かって言うと
三木さんを頼りにされるみたい
あの方なら安心して頼みごとができるとおっしゃって」
「そうですね 市民講座だって 自分から世話役をかってでてくれたそうです
書道講座は上級コースを終了してもいい腕前なのに
ここの講座のみなさんとご一緒したいのでと 毎年残っているんですから」
「あの方らしいですね……あら マーヤちゃん 起きたのね」
頭の上でボソボソと会話が続いていたけれど 先生の膝の上があまりにも
気持ちよくて 寝た振りをしていたのよ
三木さんって そうね ちょっとしゃべりすぎだけど 悪い人じゃないのよね
でも 先生に ”再婚” を勧めるのはやめて欲しいわ
これ以上 この家に女の人がやってくるのはイヤなの
瑛先生の膝は 私だけのものなんだから……
温かな膝から動きたくなくて 私はまた 寝たふりをした
瑛先生の手が 私の背中をなでる
あぁ やっぱり先生の手はいいな 三木さんよりずっといい
本当に眠くなってきて 林さんと先生の声がだんだん遠くなってきた