瑛先生とわたし
6 一色動物病院 菜々子先生
                     

今日は先生とドライブ

といっても 私はカゴ中だけど……

先生が ”少しのあいだだからね” って言うから 仕方なくカゴに入ってるの


行き先はきっと 一色動物病院ね

一年に一回 予防接種をしなきゃいけないんだって

イヤだなぁ でも 奈々子先生に会うのは楽しみ

先生に ”大丈夫よ ちょっとだけ我慢ね” って体をさすられると 

なんだか心地いいの

看護師さんも優しいし みんなが私を大事にしてくれてるみたい


私 ここの病院で助けられたんだって

あまりに小さかったから 全然覚えてないけどね






「マーヤちゃん また美人になったわね 元気そうね 

瑛君 変わったことはない?」


「注射するってわかるのかな マーヤ ちょっと緊張してるみたいだけど」


「そうなの? マーヤちゃん すぐにおわるからね」

 

私をはじめウチの病院スタッフは マーヤを見ると あの日のことを思い出す

マーヤがここに運び込まれたのは2年前 ちょうど今頃の季節だったわね



その日の診療が終わって スタッフが帰り支度をしていたとき 

私の携帯が鳴った

相手は瑛君だった

電話の向こうで叫んでて 良く聞き取れなかったけれど 

「猫が!」 って聞こえたから

「待ってるから 早くつれてきて!」 と返事をした

帰りかけたスタッフも私の電話のやり取りに ただならぬものを感じたのか 

みんな残って彼の来るのを待った


15分ほど待っただろうか

ここに飛び込んできたとき 彼の腕の中に ぐったりとした二匹の猫がいた

彼の尋常ではない様子から すぐに交通事故だと思った


運転中道を曲がった途端 横たわった猫とそばに子猫の姿が目に飛び込んで

きたそうだ

急ぎ車を降りそばにいくと 母親らしい猫は息も絶え絶えで 

子猫は衰弱しているのか鳴き声が弱々しかった 

私に電話をして すぐに連れて来たと 真っ青な顔と震える唇で 

つかえながら話してくれた



「助けて この猫を助けて 菜々子さん 頼むから」


「わかった わかってる」



事故で運び込まれる動物は少なくない

たいがいが彼のように興奮して叫び こっちの話を遮るほどだ

「わかりましたから 静かにしてください」 といつもなら諭すけれど 

彼には言えなかった

藍ちゃんのことがあったから…… 

あの事故を思い出させる事が身に降りかかった彼に 騒ぐなとは言えなかった

それに 彼には借りがあった

なんとしても この子たちを助けなければならない

その思いでいっぱいだった



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