瑛先生とわたし
8 瑛先生のお姉さん 華音さん
外は冷たい雨が降ってるわね
遊びに行きたいけど 寒いし濡れるし やっぱり家の中にいるしかないのかな
でもなぁ 今日は龍之介さんもバロンもいるし 林さんは忙しそうだし
つまんない
もうすぐ瑛先生の個展があるんだって
龍之介さんはその打ち合わせに来てるんだけど 時間がかかるから
今日は泊まっていくって言ってたわ
龍之介さんが泊まるってことは バロンも一緒なのよね
あーぁ 私の居場所がないじゃない
イライラして鈴をチリンチリンと鳴らしながら歩いてたら
突然玄関のドアが開いて 私の大好きな人が入ってきた
「マーヤちゃん こんにちは 今日も可愛いわね
その鈴 とってもいい音だわ」
”かのんさん いらっしゃい いい音でしょう 先生がつけてくれたの”
「龍ちゃんとバロンも来てるんでしょう あの車 遠くからでも目立つのよね」
”そうなの 邪魔なの あっ 一樹も一緒なんだ”
華音 (かのん) さんのうしろから ひょろっとした男の子が顔を出して
私に向かって ちょっとだけ笑ってくれた
瑛先生のお姉さんの華音さんは ときどきウチにやってくる
先生に用があるときもあれば 林さんと話して帰るときもある
一樹を預けるためにくることもあるかな
今日は届け物があって ここに寄ったんだって
林さんが ”まぁ 珍しいものを” って言ってるから 美味しいものかなぁ
私も食べられるかな?
楽しみにしてよーっと
「僕 おじさんとこがいい 龍おじさんもいるし ここにいるよ」
「でも それは……ふたりは仕事の打ち合わせをしてるのよ」
今夜は仕事の関係の会合があって帰りが遅くなるため 実家に一樹を
預けるつもりが 瑛の家に来たとたん 息子はここがいいって言い出した
龍ちゃんの車が見えたときから もしかして そう言うんじゃないかと
思ってたけど やっぱりね
「いいぞ 僕たちは仕事だけど 渉も相手がいた方がいいから
なんなら一樹 泊まっていけば」
「本当にいいの? 私は助かるけど 林さん 大変じゃないかしら」
「そんなことございませんよ 大勢いらっしゃったほうが楽しいですもの
大丈夫ですよ」
「そうだよ 華音さん 一樹 おいていけばいいよ 俺が明日送り届けるよ」
「林さん ありがとう 龍ちゃん お願いしていい?
瑛 それじゃ今夜 一樹を頼むわね」
みなに頭を下げてから一樹を見ると 嬉しそうな顔をして渉とハイタッチを
していた
男ばっかりの家に置くのは うーん 母親としてはイマイチなんだけど
まぁいいか
それじゃ お願いします と もう一度頭を下げて 私は弟の家をあとにした