瑛先生とわたし
なによ その顔はなんなのよ 私が悪いって言うの?
「学生の頃から変わってないわね 大変なのは自分だけ
洋輔さんの立場なんて考えてないでしょう
アナタ 洋輔さんに感謝の言葉を言ったことある?」
「なんで私がそんなこと言うのよ」
「ほら やっぱりね 自分は感謝されたい でも相手へ感謝の気持ちはない
瑛君 アナタのお姉様は女王様だわ
夫は仕えるものだと思ってるみたいよ」
「ホントですね 僕らにはわからないですね
ケンカできる相手がいるだけ羨ましいよ」
それを言われたら 私 なんて言ったらいいのよ
ふたりともどれだけ辛い思いをしたか それくらい知ってるわよ
そんなの私に言われても……
「姉さんが言って欲しい言葉を 義兄さんにも言った? 言ってないだろう
それじゃわからないよ」
「そうそう 洋輔さん いまでもなんで離婚を言い渡されたのか
わかってないと思うな
まったく アンタって人は なにもかも勢いでやっちゃうんだから
ねぇ華音 別れてまだ半年でしょう 考え直しなさいよ」
「そんなの無理よ あんなに騒ぎ立てて離婚したんだもん 体裁が悪いわ」
「体裁がなんだよ 義兄さんだって同じだろう
それなのに僕のところに相談に来たってことは
それだけ姉さんに未練があるってことじゃないか」
「それがイヤなのよ なんで私のところに来ないのよ」
またふたりが溜め息をついている 私はそんなに悪いことをしたの?
私だって向こうがその気なら 考え直さないでもないのよ
だって本当に嫌いになったわけじゃない……のよね
「アンタって ホント恋がヘタね いつだってそう 相手に求めるばかり
自分の方から歩み寄らないの それじゃ進歩がないわ」
「ほっといてよ 私はいままでこれで生きてきたの」
「よくないよ 一樹だってお父さんと一緒に暮らしたいって言ってたよ
父親がいるんだよ それだけでもありがたいことじゃないか
僕や菜々子さんには 望めないことなんだ それって……贅沢だよ」
そんなことくらいわかってるわ 私だって後悔してるのよ
別れるって言い出した手前 引っ込みがつかなくなって
離婚へとどんどん推し進めた
夫の気持ちなんて聞きもしないで こっちの不満ばかりを並べ立てた
向こうのご両親は 「不甲斐ない息子で 申し訳ない」 と言ってくれた