瑛先生とわたし
2 先生の友人 龍之介さん
あっ あの人が来た……
アメリカ製の車の音は 音に特徴があるから嫌でも耳に入るの
それに無駄に大きいのよね
この家の駐車スペースの二台分を占領しちゃうんだから ホント迷惑
バンッ って 乱暴にドアを閉める音までも聞こえてきた
”オレが来たぞ!” って自己主張してるみたい
瑛先生の亡くなった奥さんのお兄さんだから この家で大きな顔をしても
誰も文句は言わないけれど ちょっと態度がデカすぎ
先生や渉に あーしろ こーしろ って指図が多いんだもん
この家はね 瑛先生の家なのよ わかってる?
必ず一緒に来る 犬のバロン
龍之介さんも体格がいいけど この犬も大きいの
いったん座ると決して動かないし 置き物みたいにじっとしてるんだもの
ちょっと邪魔って思うこともある
でもバロンは 先生の奥さんが大事にしてた犬だって聞いてるから
大きな態度も仕方ないけどね
今日の龍之介さんの御用は何かしら
また先生を合コンになんか誘ったら 私 承知しないから
飛びついて 引っかいてやる
”よぉ 邪魔するよ” と のんきに入ってきた龍之介さんを
私は睨みつけながら尻尾を立てた
おっ この猫 またオレを敵視してるよ
女ってのは 人間でも動物でも同じなんだな
好きな相手に近づくヤツは みんなライバルか……
「おい マーヤ そんなにオレを睨むなよ あはは……嫉妬か?
瑛をとったりしないよ ちょっとだけお前のセンセイを借りるぞ」
「おまえが いつもマーヤにちょっかいを出すから警戒してるんだよ
マーヤ こっちにおいで」
ほぉ……瑛は猫の扱いも上手いもんだ
さっまでのマーヤの嫉妬に狂った目が 一瞬にして消えたぞ
昔っからそうだったな
お前は女に優しい 優しすぎるんだ
だいたい 花房 瑛 って名前が女心をくすぐるんだ
はなぶさ あきら……小説の主人公みたいな名前じゃないか
俺なんか 長谷川 龍之介 だぞ
どっかの小説家の偽者みたいだよ
何気ない言葉が 相手には甘く聞こえるんだろう
「あっ 髪型を変えたんだね 前のもよかったけど
短いのも爽やかでいいよ」
なんて言うから 女の子達は ぼぉーっとするんだよ
何気ない動作が 相手に誤解を招くんだろう
「どうしたの? 元気がないね 今日は早く帰ったほうがいいよ
送っていこうか」
なんて言うから 女の子たちは この人 自分のこと好きなんだ って
勘違いするんだよ
なにより 瑛にその自覚がないってのが困るんだよ
藍 お前のかわりに 俺がコイツのこと見張っといてやるかなら
安心してそこから見てろ